011
第37回オセロ世界選手権2日目。高梨九段の言うとおり、上位につけているプレイヤーは「勝っても勝っても強いプレイヤーとあたる」という血で血を洗う戦いが繰り広げられる。勝ち残った者だけに与えられる「3日目もオセロができる」という権利のために、ストックホルムで死闘を繰り広げてることを想像するだけで何とも言えない気分になってくる。

round8


2日目の始まり、注目対局はday1をトップで通過したPiyanatと山川七段。山川七段は、day1でPiyanatだけでなく、SeeleyやBorassiなどの「元世界チャンプ」とまだ対局していないためday2の「あたり」は相当厳しくなると思われる。しかし調子の上がってきた山川七段に勝てる人間はあまり見当たらない。



black:Piyanat Aunchulee
white:Takashi Yamakawa

豊富な知識を誇るPiyanatに対しても見事な打ち回しで勝利した白の山川七段。山川七段はPiyanatのことを「暗記量が異次元レベル」と評していたが、この対局から見る限り山川七段も同じく異次元レベルで打っているのではないだろうか。

この勝利により山川七段が7-1で単独首位に!


round9


単独首位に立った山川七段はフランス代表 Marc Tastet と対局。タステ選手は確かに元世界チャンプではあるが、近年の成績を見てみるとEuropean Grand Prix などローカルの大会でも柏原さんの後塵を拝しておりパッとしない状況のようだ。日本国内でも無敵に近い山川七段が負けることは考えにくい、のだが…。



black:Takashi Yamakawa
white:Marc Tastet


予想に反して白のタステ選手がかなりうまく打っている。山川七段の得意な進行かと思われたが中盤からほぼ黒にチャンス無く山川七段はここで2敗目を喫した。とはいえ計算上はあと1敗できるのである程度は余裕があるのかもしれない。

round9終了時点で岡本八段とPiyanatが7.5勝で同率首位に。7勝グループが山川七段、ニッキー、タステとなった。しかし、6勝グループにBen、Borassi、谷田七段、オデガなどの強豪がひしめいており7勝グループも決して油断できない。

round10


山川七段とアメリカ代表・谷田七段の対戦!所属は違うが日本人同士の対局であり、そしてまた谷田七段は私自身昔から何度か練習会や公式戦で対局させてもらってるだけに複雑な気持ちである。名著「図解早わかりオセロ」でオセロの勉強をした人間は非常に多いはずだ。私など、谷田七段のサイン入り「早わかりオセロ」を今でも大切に持っているほどである。



black:Takashi Yamakawa
white:Kunihiko Tanida

オセロ世界選手権優勝の最年少記録としてギネスにも載っている谷田七段ではあるが、ここ数年の実績は山川七段に一日の長がある。棋譜を見てると中盤からじりじりと黒の山川七段ペースになっていくが、白は38手目に起死回生を狙って勝負手のB2!

day2終了後に、この山川七段戦について谷田七段に話を聞いた。

伊藤七段の記事にもあったように私も対話するつもりで着手するのが常で、対山川戦も

『ここで外しますけどご存知ですか』
『やっぱりご存知ね』

『このX打ちどうやってとがめるのか教えて下さい』
『なるほどね』

という感じでした。


とのこと。「着手で会話する」という感覚は高段者にしか持ち合わせていないのではないか。CPU解析全盛の時代ではあるが、高段者レベルになると「良い手を打つ」ことよりも「この相手に対し、どういう意味の手を打つか?」の方が彼らにとってエキサイティングなのかもしれない。

この対局は終盤で石損が少し目立つも山川七段が綺麗にまとめて勝利。



round11


round11の見どころは何と言っても岡本八段とMichele Borassi だ。Borassiの序盤における膨大な知識と終盤の正確さは非の打ち所がない。私は最近まで知らなかったのだが、Borassiは4年前のイタリア数学選手権のチャンピオンだったらしい。説明不要のロジカルモンスターと、現在のオセロ世界最強・岡本八段との対局。面白くないわけがない。



black:Michele Borassi
white:Kazuki Okamoto


今回のWOCでは兎を打っているBorassi。23手目にいきなりB7!私のような低段者からするとC2やD3、G1などでお茶を濁したいところだが、岡本八段相手に黒持ちでずるずるいくと偶数で普通に負けてしまうと考えたのかもしれない。

微妙な形勢で進んでいく盤面。私が次に驚いたのが白34手目E1。どうも最善らしいのだが、中盤のこういう局面でなぜこの一手が最善なのか、そしてどういう思考過程を経てこの一手が打てるのかがまったくわからないのである。為則九段もこういう局面でことごとく最善を打っていたことを記憶しているが、いつかこういった局面の思考過程を直接聞いてみたいと感じた。

勝負は岡本八段優勢のまま34-30で勝利!9.5勝となり予選通過はほぼ確実となった。Borassiは一歩後退。


round12


いよいよ終盤の12回戦。単独2位(9勝)の山川七段と4位グループ(8勝)の Ben Seeley の対戦。この時点で4位グループにいるということは、残り2戦で1敗したら予選敗退が濃厚である。恐らく「超本気のSeeley」が現れるはずだ。山川七段と Ben は世界戦の舞台では初対局でも、おそらくオンラインでは相当数の対局をしているだろう。手の内は双方かなりわかっているはず。

また大会前に行われた Ben のインタビューを読むと、今回相当気合いが入っているようで個人戦だけでなく団体戦優勝もかなり狙えると考えていたようだ。round11が終わった時点で日本とアメリカは2.5勝差で日本がリードしており、ここでBenが負けたら団体戦の優勝はまず無くなる。そういう意味でも相当気合いを入れてこの対局に臨んでいると思われる。



black:Ben Seeley
white:Takashi Yamakawa

難解な局面が続くが、白44手目B5が決定的な敗着だろうか。以降白にチャンスはなく完璧な終盤でBenの勝利となった。Ben、ギリギリで予選通過ラインに踏みとどまった!ここまでの成績は以下。

1位 岡本八段(10.5勝)
2位 Piyanat Aunchulee(9.5勝)
3位 Ben Seeley (9勝)
         Nicky van den Biggelaar
         山川七段

しかしBenはday1で3敗を喫し「劣化した」とまで言われていたが、day2に入って凄まじい追い上げを見せてきた。やはりさすが鉄人である。苦しくなったのが山川七段。Ben と Nikcy がまだ対戦していないためrouund13で対局になる。勝ったほうが通過となる。負けたほうは山川七段の対局結果でプレーオフか敗退か、が決まる。山川七段は次の試合で負けたら通過不可能。シビアな戦いとなる。


round13


Nicky と Ben の「勝ったほうが通過」というわかりやすい一戦。



black:Nicky van den Biggelaar
white:Ben Seeley


終盤黒のNickyがうまくまとめて会心の勝利!最終戦でBenを破って予選通過という最高の出来でday2を締めくくった。しかしBenのday2は本当に脅威だった。



山川七段はBorassiと対戦。勝てば予選通過。引き分けの場合でもほぼ通過なはず。そしてBorassiが今大会決して本調子ではないため十分勝機あり。



black:Takashi Yamakawa
white:Michele Borassi


崖っぷちの山川七段。2008年世界チャンプBorassiに対し引き分けという薄氷の結果で0.5勝差にて決勝リーグ進出!!!


こうして決勝リーグ参加者が出揃った。
1位:岡本八段
2位:Piyanat Aunchulee
3位:Nicky van den Biggelaar
4位:山川七段


準決勝は予選1位と4位が対戦するため、岡本八段と山川七段という日本人対決となった。今年もまた日本代表が優勝できるかどうかとても楽しみな結果となった。



選手・高段者によるday2 playback


岡本八段


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初戦は外国人選手と対戦したかったってのはありますけどとりあえずベストを尽くしますよ!楽しみにしててください!



宮崎七段


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2日目も、初日午後の連敗の流れが払しょくしきれず、負けが先行する苦しい出だしとなってしまいました。内容的には勝たなければいけなかった試合も多かったです。まだまだ色々不足している部分があると感じましたが、中々出来ない機会を頂いて楽しかったです!




中森六段


ー中森六段がよく知る2人の準決勝となりました。

山川くんと岡本くんは得意な分野(終盤)と苦手な分野(中盤)がよく似たプレイヤーだと見てますが、予選では岡本くんが終盤に隙が見えたのに対して、山川君は終盤はほぼ完璧でした。ただ、山川君は完璧な終盤を補ってあまりあるぐらい中盤の調子が良くないように見えました。それが結果にもそのまま表れてるなと。

準決勝では、両者が調子の悪い部分をどれだけ修正できてるかがポイントでしょう。あと、黒番のときに、相手(白の縦取り)の鉄壁の研究を崩すために、お互いにどんな定石を選択するのかも注目です。

ーもう片方のブロックはどうですか?

二人とも対戦したことないので分かりませんが、勝敗は50:50でしょうか。日本の二人にとって決勝に上がってこられると嫌なのはタイのピヤナットだと思います、とにかく序~中盤の研究が厚そうなので。準決勝で落ちることを祈りましょう。笑



中島八段


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ここ数年常に感じてることなんですが、上位陣の終盤の正確さにはほんと驚愕です。山川七段の平均石差損3.2なんてわけわからない。岡本八段の7.2も、3回戦で珍しくしでかした40石損がなければ4.2くらいなわけで。

自分が最も強かった頃と比較しても、全く歯が立たない!新世代のトッププレイヤ達にはもう追いつけそうもない。どうしよう!



末國九段


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ー準決勝で日本人対決となりました。

日本人同士の勝負は決勝戦に取っておきたかったですが、楽しんで観戦しましょう。

岡本八段と山川七段は予選でも試合していますが、山川七段の骨太な棋風が発揮された試合だと思います。一方の岡本八段は、予選を通じて安定した終盤力を示しました。中盤戦から終盤の入口の打ち合いが見所でしょう。

ーNickyとPiyanatの対局はどうみてますか

もうひとつの山、Nicky選手は素直な打ち回しですね。終盤にややムラがある局面もありましたが、予選より持ち時間が長いですので落ち着いて打って欲しいですね。

ピヤナット選手は幅広い定石知識と骨太な棋風が持ち味ですね。にっきー選手は一般的な定石を外すことがあるので、そこでの対応が見所でしょう