woc01
2013年10月24日16時(日本時間)、いよいよ世界選手権2013が開幕した。現地からのTwitterによると、日本勢は前日から調整しつつもアメリカ代表谷田七段と食事に行くなどリラックスした様子。しかし、山川七段は睡眠がうまく取れなかったなど緊張している様子も伺える。果たして日本代表の、そして有力外国勢のday1はどう展開していくのか。

round 1


round1の組み合わせは例年、前日のレセプションパーティで抽選され発表される。事前情報の無い対戦相手が決まるのは対策のしようがなく不安も残ると思われる。日本勢も事前情報の少ない対戦相手になったようだ。そして、WOC2013round1でもっとも注目される組み合わせは Michele Borassi vs Marc Taste の元世界チャンピオン対決だ。

Michele Borassiは2008年世界チャンピオン。宮岡七段との死闘は未だに筆者の記憶に残っている。そして Marc Taste は1992年の世界チャンピオン。その後も90年代は数回決勝リーグに進出しており、おそらくは現在でも強豪であろう。


BLACK:Michele Borassi
WHITE:Marc Taste


白36手目、Tasteは劣勢打開を狙った渾身の一手G7!しかしBorrasiは冷静に対処し終わってみれば40-24黒Borassiの勝利。久々の出場とはいえ、Borassiの着手切れ味は相変わらずだ。

table2のキャロラインvs マシアスベルグは番狂わせでキャロライン勝利。キャロラインの一回戦といえば2006年水戸の為則九段戦を思い出す人も多いのでは。勝勢だったキャロライン、終盤で乱れて4石負けという大金星を逃したのだが、今回は遂に大物食い達成。

日本勢は山川七段、岡本八段,、宮崎七段が順当に勝利。特に岡本八段は61石、山川七段が58石と荒稼ぎ。仕上がりは順調のようだ。佐野六段は惜しくも負けてしまった。


round2


Round2はタイの強豪 Piyanat AUNCHULEE と Ben Seeley という新旧強豪対決が注目の対決である。双方とも序盤から膨大な知識を持っており、どんな局面になるかまったく予想ができない。


BLACK:Ben Seeley
WHITE:Piyanat AUNCHULEE


黒23手目Benが長考に入る。難しそうな一手であるが無難なG3を選択。そして黒39手目。かなり黒が重くなってきており劣勢かと思われていたBenはD8!Piyanatは5分以上長考してC8に着手。C8!?ぱっと見ボスコフが成立しているのだが大丈夫なのか…。と思っていたがPiyanatがそのまま押し切った。Piyanatは今年、暗記だけではない驚異的な強さを身につけているのかもしれない。

そして、外国勢優勝候補の一角Borrasiも痛い見落としをしてしまい土がついた。SeeleyとBorassiが2回戦でいきなり負けるという波乱の展開となった。

日本勢は山川七段が惜しくも1敗を喫した。岡本八段、宮崎七段は2勝目。佐野六段は1勝目をあげる。




Round3


岡本八段が初戦から圧倒的な強さを見せている。owcでは予選二日間、決勝リーグの決勝戦まで通しで負けなし、という安定的な強さを見せていた。WOCでも同じく二日間通じて圧巻の強さを見せそうだ。

岡本八段を見ていると(本人はどう思っているかわからないが)、信じられないほど「落ち着き払っており、まったく動じない」のである。勝って当たり前、不利な局面になってもいつでも逆転できるというようなあの風貌は相手にとってみればちょっとした脅威でもある。あの静かな笑みは、将棋の「羽生睨み」にも通じる怖さがある。


BLACK:Kazuki Okamoto
WHITE:Oskar EKLUND



序盤は黒岡本八段が優勢と思われたが中盤以降はかなり打ちにくい形勢になった。定石は通称あるじょわコウモリ。一見悪手に見えるが、やはり岡本八段が打っても苦しくなった。終盤どうにか追いつきギリギリ岡本八段の勝利。

round4


WOC2013 day1もっとも注目される一戦かもしれない、岡本八段とピヤナット頂上決戦である。日本人にとってピヤナットといえば「暗記がすごくて高梨九段にも勝ったことがある」というくらいの認識かもしれないが、今大会は相当なトレーニングを積んできたようで中盤終盤も含めてぶっちぎりの強さを見せている。現在世界最強ともいえる岡本八段とピヤナットはどのような棋譜を残すのか。


BLACK:Piyanat Aunchulee
WHITE:Kazuki Okamoto


おそらくピヤナットの暗記が切れたあたりから少しずつ白岡本八段がリードしたように見える。優勢のまま終盤に突入したが、白48手目痛恨の分着!といっても解析していただけで間違いなく私に正着は打てない。こういう局面でのさばきを習得すれば高段者になれるのだろうか…。以降双方最善で引き分けとなった。ピヤナットにとっては命拾いの引き分け、岡本八段にとっては痛恨の引き分けとなった。


round5


5回戦にしてついに岡本八段vs宮崎七段の日本人対決となった。強豪が揃う日本代表にとって宿命とも言うべき日本人対決。見ている我々にとっても心が締め付けられるのは気のせいだろうか。過去にも様々なドラマがあったが、やはり2010年WOC高梨九段と滝沢九段の対局を思い出す。

あの時高梨九段は予選通過ほぼ確定と言われており、滝沢九段は崖っぷちであった。高梨九段がわざと負ければ、彼も滝沢九段も決勝リーグ進出。しかし高梨九段は一切手を緩めることなくその戦いに勝利し決勝リーグ進出を決めた。

局後高梨九段はTwitterで「自分だって通過確定しているわけじゃなかったからわざと負けることはできなかった」と語った。そして、後からその戦いに負けていたら高梨九段は「予選不通過」だったことが発覚したのだ。「日本人同士だから…」というような慢心、気の緩みを見せると思わぬ所から足を掬われるのが世界戦といえるだろう。


BLACK:Kazuki Okamoto
WHITE:Yuji Miyazaki


岡本八段と宮崎七段の戦いも「day1をどう締めくくるか」という意味で非常に重要な試合であり双方気の緩みを一切見せない対局になった。岡本八段が中盤以降圧倒的な力を見せて勝利。


round6


6回戦も日本人対決。岡本八段vs山川七段。山川七段はここで落とすと初日2敗ということになりday2がかなり苦しくなる。それもあってか山川七段は相当な気合いをもって臨んだといえるだろう。


BLACK:Takashi Yamakawa
WHITE:Kazuki Okamoto


圧倒的な黒番山川七段の横綱相撲と言える素晴らしい勝ち方である。「黒はこう勝つ」というお手本のような、しかし凡人には真似のできない(中盤私はことごとく着手予想が外れた)対局となった。

世界戦の場で、日本代表同士の対局者はどういう気持ちのやりとりをしているのだろうか。団体戦優勝がかかっているからもちろん仲間であるわけだが、しかし個人戦ではこの一敗が予選敗退を決めるかもしれないのである。



Playback Day1


day1が終わり、代表選手や高段者に「初日の感想と明日の抱負・展望」を聞いてみた。TwitterやLINEで気軽に聞けるとは本当に便利な時代になった。


山川七段

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知らない人でも強い人多くて焦りました。定石を温存してる場合じゃないということに5回戦くらいでようやく気づきました。

2日目は強い人とたくさん当たると思いますがもちろん全勝を狙います!



岡本八段

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山川七段に負けたのはどうしようもなかったとして、ピアナットに引き分けたのはちょっと痛かったかも…。

あと棋譜見てもらえれば分かると思いますが、終盤がどうも安定してない状況でした。今日は戻したいですね!

2日めを5勝1敗でいけば通過なので、とりあえず全勝目指して頑張ります。体力的にもしっかり寝られてだいぶ回復したつもりなんで、疲れが取れてることを祈るのみです( ・ω・)



宮崎七段

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初日は、最初のほうは順調に行きました。ただその後3連敗してしまい、体力切れになってしまった部分もありました。

2日目は体力面に気をつけながら、全部勝つつもりで頑張ります!



中森六段


自分が生オセロはじめた9年前ぐらいは、ちょうどベンシーリーが最強だった時代だったので、彼が初日に3敗するなんて時代は変わったなぁと思いますね。彼が弱くなったのか、周りが追いついたのか、そのあたりも二日目は注目していきたいですね! 



高梨九段

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ー初日を見て感想は?

初日はまず序盤から柏原さん、フランスのArnaud Delaunay、Ben Seeley が結構負けてて驚きました。そして、 Roel Hobo、Nils Berner 、Oskar Eklund 、Sky Chong 、Gianluca Ilacqua などの、正直言うと「名前も見たことのないようなプレーヤー」が上の方で頑張ってるという印象ですね。特に Miroslav Voráček は見たことあるけど例年上位に居る印象はなかったから、初日の快進撃はびっくりです。山川君と岡本君はさすがの一言。

ーday2の展望はどうでしょうか?

山川くんは初日6-1でとても良い展開でしたが、ピヤナット、ニッキー、ボラッシ、ベンなど強豪外人勢との対戦が残ってるので油断ならないと思われます。あとブライトウェルポイントが低めなのも気になる。

岡本君は5.5勝だけど山川くん、ピアナット、ベンと対戦を終えてるので個人的には山川君より気が楽かもしれません。

宮崎さんは土俵際まで追い込まれてるけど底力を見せてほしい。もし予選落ちが決定してしまっても、気持ちを切らさず団体戦の為に頑張ってほしいです!

ー外国勢はピヤナットがやはり一歩リードしてますよね。

ピアナットは6.5勝の単独トップで、かつ岡本くん、ベン、タステと対戦済みなのが良い感じ。ただトップの割にはブライトウェルポイントが低めな気がする。突っ走れば問題ないけど、負けが込んだときにどうなるか?

ニッキーは2位タイですが山川、ピヤナット、岡本の上位3名含め強豪とほとんど当たってないので2日目は相当苦戦しますね。これは厳しい…。


ー世界戦独特の「2日目の難しさ」みたいなものはありますか?

一日目上位グループにとって二日目は本当にきつい。毎年世界戦のレベルが上がってるとは言っても、一日目は所謂組み合わせの「当たり」があって、楽に終わる試合もあります。

しかし、二日目は上位同士の潰し合いになるのでそれがない。印象としては「6試合とも五段以上が相手」みたいな感じですね。上位同士の対決が終わっていたとしても、世界戦常連の強豪達は仮に初日沈んでいたとしても必ず上位に上がってくるのでそこでまた強豪と対戦することになる。

僕も毎年初日は上位につけるけど、二日目はへろへろになってギリギリ通過になることが多いです。強豪達との連戦で全勝するのは難しいので、あらかじめ「○敗までは大丈夫」と自分の中で決めておくと、負けたとしても次に切り替えやすいですね。2009年の僕はそれが出来ず、次の試合でも負けを引きずり負のスパイラルに陥ってしまいました。


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非常に興味深い話が聞けた。特に高梨九段の経験してきたものにしかわからない深い話は一般プレイヤーにとってもかなり面白いのではないだろうか。そういったことも踏まえてday2に注目である!